【楽園からの旅人】
「ポー川のひかり」(二〇〇六年)などで知られるイタリアの名匠エルマンノ・オルミ監督の新作。取り壊しが進む教会でひっそり暮らす老司祭が、ある日、突然やってきた不法入国者たちをかくまうという話。
教会は電気が止められ、雨が漏る。礼拝が差し止められ、来る者はいない。司祭の生活は、牛乳とビスケットを口にするだけの粗末なものだ。ある晩、不法入国者たちが逃げ込んでくる。司祭は、司教の来訪の際に使った高貴な部屋に負傷者を寝かせてやる。体調を崩す子供や身重の女性もいる。
なぜ彼らを教会に入れたのか。管理人はけげんな顔をするが、司祭は「慈善を施すのが危険なら、その時こそ慈善を施すべきだ」と答える。司祭は神の愛を唱えながらも信仰にとらわれない独自の思想を持つ。その人物描写が秀逸。
教会の建物を人間の肉体になぞらえるなら、それが滅んでも思想は残る、とも読める。さまざまな解釈が可能だ。また、教会内部は劇場の舞台のようであり、監督は、芝居を見るような感じで見てほしいのだろう。
司祭は、教会を調べにやって来た保安責任者に「不法移民はいない。いるとすればお客だ」と言って追っ払う。せりふもうまい。
オルミ監督は「ポー川〜」で劇映画は終わりにし、今後はドキュメンタリーを撮ると発言していたが、それを撤回し、この新作を世に送り出した。隣人を顧みない時代状況に黙っていられなかったのではないか。
教会に押し入ってきた保安責任者に司祭が「弱き者を武力で迫害する者よ。悔い改めよ」と非難し、よろよろしながら、精いっぱいの力でつえを振り上げるシーンが印象に残る。秀作だ。