−アイン号の休息−
旭川市の入口にさしかかって、なぜかほっとした。都市にはそれぞれの霊的な雰囲気がある。この都市は気が休まる。話は前後するが、小樽は旧いものを大切にし、古都保存に熱心であり、人々を魅了する。懐かしいものを感じさせる心の故郷のようである。
人間は新しさを求める一面、どうしても変えて欲しくない古きものに、強いノスタルジー(郷愁)を覚える。
小樽は、当エクレシアの鎌田政治郎兄(75歳)、元獣医師の懐かしい故郷でもある。体の弱い彼に代わって、私はこの心静まる古都で祈り、写真を撮り、駅でJRの入場券を1枚求めた。せめてもの、彼の望郷の熱い思いを叶えてあげたかったからである。
商都、札幌では、こう言ってはなんだが、霊気が吸い取られ、ひどく疲れてしまった。非霊的な「ベツサイダ、コラジン」のような雰囲気に包まれていて、そそくさと通り過ぎた。しかし祈りはあとに残して来た。
札幌で生まれた「ボーイズ・ビー・アンビシャス」のあの霊性はどこに消えたのか。クラーク博士のもと、内村鑑三などによって結成された札幌バンドの熱き信仰心は、この都市のいずこにありや!
話を元に戻そう。アイン号(4世号)のおなかの具合がどうもおかしい。やたらと「プス、プス」と音を立てる。とても苦しそうである。
ふと見ると、旭川スバルが目についた。早速飛び込んだ。受付に赤川さんというマリア様のようなご婦人がいた。「どうなさいました」と聞かれ、「旭川豊岡町に行くにはどう行けばよいのでしょうか」と尋ねた。
この街にクリオンの子供たちを助けて下さった教会と日曜学校のお子さん達が住んでいる。初めてなのに何年も前から知っているような、そんな懐かしい雰囲気をかもし出している街である。赤川さんも初対面のような気がしない。
クリオンのトラクトとグラスカードを渡し、来道の目的を告げた。彼女は早速、アイン号のための応急処置をしてくれた。「かなりひどいですね。でもこれで何とか走れるでしょう」と力づけて下さった。修理費を支払おうとしたが、「よろしいです」言って受け取らない。つい甘えてしまった。ついでにお茶までも。
別れぎわ、わざわざポーチから男の方と手をふって見送っていただいた。ほんの束の間ではあるが、温かい心の触れ合いがあった。
豊岡めぐみ教会に電話したが、月曜日のことで、あいにく不在だった。もし先生にでもお会いできたら、クリオン島のビデオテープを見ていただくつもりであったが、祈りの中にお礼の言葉を残し、心を残して旭川に別れを告げた。
これから先、持参した「クリオン島のトラクト」をここぞと思うところに配っていこうと心ひそかに決めていた。道北から道東へ、なぜかこの方面を重点的にトラクトの試矢を放つつもりで最初から計画していた。
旭川に入ってからというもの、不思議に体調は信じられないほど良い。あの美利河峠の苦痛がウソのように感ぜられる。
出発前、慈恵会医大の戸田教授(戸田第1内科)に北海道伝道旅行の相談をしたところ、主治医として、タイコ判を押して下さった。
「大丈夫ですよ」
この一言は、私にとって何よりのプレゼントになった。
(つづく)
「心の旅路」より抜粋