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段ボールハウスがならぶ関内駅の地下道

「お父さんね、一文無しになっちゃったから…」
軽トラの荷台で、これから配る食料や日用品をセットしていると、こんな声が聞こえてきた。
「もう一緒にいられないけど、お前は、一生懸命勉強して…」
幌(ほろ)の影から顔をのぞかせると、数メートル先に、50代後半の薄いコートを着た男性が、携帯電話を耳にあて、立っている。
「そう。国家資格をとるのは大事だから…」
さっき、段ボールの「家」で、すでに横になっていた人だ。お子さんと話しているのだろうか?

12月29日午後4時半。横浜・関内に来ている。

車を停めているこの路地は、暗く静かだが、2本向こうの通りは関内駅前になる。
駅構内は乗降客や待ち合わせの人でごった返している。
ちょっと歩けば中華街、伊勢佐木町の繁華街が広がっている。
そんな街のビルの片隅、駅の地下道、横浜スタジアムなどにホームレスの人がいる。

年に2、3回、冬と夏に、新しい下着やタオル、歯ブラシやヒゲ剃りなどを、食料や飲み物と一緒に配っている。その他衣類や毛布を軽トラに積んでいる。
聖書の故事にならい、ホームレスの人たちをラザロさんとよんでいるが、ラザロさんとの関わりは、愛の樹が大事にしてきた、ひとつの使命である。
年に2、3回は少ないと思われるだろうが、自分たちがその身になったら何が必要か、その都度考えながら準備をしている。

横浜スタジアムを囲む公園は大規模な改修工事が始まっていて、水場やトイレのある一角が白いフェンスで囲まれていた。

「トイレはどうしているんですか?」
「交番のところにあるんだよ。そこまで行って…」
「これ焼き芋と飲み物ですが、あったかいうちにどうぞ。カイロとは新しい下着もあります」
「ありがとう。今朝から食べてなかったんだ。最近はコンビニの(残った)弁当も出なくて…」
「えー?そうなんだ… 年末年始は炊き出しはあるんでしょ?」
「あるけど遠いから行けないよ」
「たいへんですね。他に必要なものはありませんか」
「大丈夫。荷物になっちゃうから。…あと、ここに2人来るから、同じの置いて行ってくれる?」
「わかりました。大事にしてください。よいお年を」

段ボールをたくみに組み合わせてハウスを作っている。夕方5時前後になると、すでに休んでいる人もいる。しばらくは暖かくても、きっと寒さで数時間後には目覚めてしまうのだろう。


地下街に行くと、高齢者が多い。しかし年齢を聞くと、50代後半だったり、60代前半の人もいて本当にショックを受ける。
毛布1枚しかかけていない人もいた。女性もいた。
顔が真っ黒によごれている人がいた。ズボンが必要だというので、何本か持っていくと、じっくり選んで、最後に、ほほ笑んでくれた。

2時間前後、こうして軽トラとラザロさんのいるところを何度も往復する。
街はにぎやかなままだから、時の経過があまり感じられないが、見上げると、すっかり日が暮れている。
焼き芋や飲み物、日用品は40人分用意したが、ほぼみなさんにいきわたっていると思う。喜んでもらったと思う。
あとは寿町に周り、ドヤ街に衣料品や毛布などを届ければよい。気をつけてふるさとの家に帰ろう。
ホッとして軽トラのハンドルを握ったとき、さっきあった人たちの顔や姿が浮かんで、改めて思わされた。

「ラザロさんの夜は始まったばかりだ」

体を消耗し、老いを深くする、冷たい夜が始まったばかりだ…と



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