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公園がある横浜スタジアム

ラザロさんがいない

記録的な猛暑をだった今年の夏のある日、横浜の関内駅周辺のホームレスの人たちに日用品や冷たい飲み物、新しい下着などを届けに行った。

すでに夕方なのに、夏の陽はおさまらない。彼らの姿がどこにも見当たらない。
会社員も観光客も人通りは多い。公園にも涼む人々がいる。
でも、ビルの一角や野球場にその姿はない。

関内駅の地下通路にいくと、2、3人の人が段ボールで眠る準備をしている。高齢の人が多い。

まだ少ないけど、みんなどこにいるんですか?

暑いから夜中になるまで外で涼んでるんだよ

ここは涼しいんですか?

いやー暑くて結局眠れないよ

再び地上に戻る。

会社が終わり、人の波がどっと関内駅に向けて動き出している。
その波の中、滞るように、取り残されたように、たたずむ人がいる。
ラザロさんの姿が見え始めた。

私たちを甘やかさないでほしい

ありがとう。助かります。

炊き出しは日、木、金とやってくれてます。
おにぎりだけのこともあるが…

あなたも宗教できたんでしょう?
私はこう言いたい。
私たちを甘やかさないでほしい。

私たちを甘やかさないでほしい。
だからあなたも今日はもう帰ってもいいんだ!

ある人に飲み物などを手渡すと、矢継ぎ早にこう言われた。
昨年から地域の教会が炊き出しを始めたそうだ。

実は彼と出会ってもう6年になる。着いたらまず彼を探す。
年々髪は伸び、やつれてきているが、その暮らしに流儀がある。
特に段ボールハウスを最小限のガムテープで作るため、ちぎったガムテープを体中に貼っている様子は印象的だ。その時もその真っ最中だった。

しかし、このように激しい調子で話されたのは初めてだった。
私は彼のいきどおりと、日々の過酷さがよくわかる気がした。
心の大事な何かを傷つけられているのだ。まさに彼の尊厳を…

私はあなたと同じ一般人です。
宗教の教えを広めようとかは目的じゃない。

たくさんの人からホームレスのみなさんに託されたものがある。
それを配るまで帰りません。

私が答えたのはこれだけだった。時々来る私を思い出してくれたのか、彼はハッとしたように目を開き、無言でうなずいた。

乾かないもの

前回尋ねたとき工事していた公園が新しくなっていた。トイレも使え、きれいになっていた。
そこに5、6人のラザロさんがいた。上下関係のあまりない、彼らの連帯感がなぜかほっとした。

体はみな一様にぬれている。汗ではない。水を服にかけている。

すぐに乾いちゃうんだけど、涼しいから。
気化熱っていうのがあるでしょ。
それをやっているわけ。

明け方は寒いくらいになるが、結局、戸外で寝ているそうだ。

ある人がシャツをめくりながら話しだした。

これ見てくださいよ。胆石で石だけじゃなく、胆のうごと取りましてね。その手術の跡です。
費用は大丈夫でした。生活保護ももらっていたので。
通院はまだしてますが、月一回で。体は元気です。
でも、自分は下手こいちゃって、もう生活保護もらっていないんですよ。
役所の人がいろいろ言うもんだから、あれで…

毛布もない。本当に着の身着のままの彼ら。
届けたものは、過酷な路上生活で、「すぐに乾い」てしまうだろう。

仕事を世話するのでもなく、宿を提供するわけでもない(オショチはそれをされてきたのだが)。
炊き出しもしていない(とても重要な仕事だが、ある種の自己満足が人を傷つける。そのぎりぎりのところを来るたびに感じている)。

ただ、私自身の日々の暮らしの中に、彼らの一言一言がその姿と共にある。
それは、決して乾かない。うるおいとも、温もりとも、あるいは「渇き」とも「炎」とも言えるようなものである。


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オショチブログ 天路歴程(17)天に帰った獣医