−神秘の摩周湖と全生園の青年−
相変わらず悪天候が、私たちにしつこくついてまわった。ガソリンスタンドの人に「何でこんなに北海道は雨が多いんですかね」と聞くと、何10年ぶりかの異変だという答えが返ってきた。
摩周湖に行きたいと言うと「無駄ですよ。どうせ、霧か雨かで見えっこないから」と言われた。それでも気がひかれて行ってみた。30数年前、一度訪れた事があるし、懐かしさもあった。
横なぐりの雨の中で、小さな青いテントを一生懸命にたたんでいる青年を見かけて声をかけた。筑波学園都市から来た、31歳の青年は石川と名乗ってくれた。目が優しい。お互いに写真を撮りあって、私は来道の目的をふと彼にもらした。
ところがである。石川青年が言った。「僕も東京清瀬の全生園でうまれたんです」。全生園とはハンセン病の方々の生活の場であった……。
この奇遇にびっくりした。クリオン島のトラクトを手渡すと、とても感動したらしく「旅の途中で所持金も少ないのでほんの少し献金させて下さい」と言って500円献金して下さった。まさにレプタ2枚の尊い献金であった。またまた、私の泪の種がひとしずく増えた。
この旅行は聖霊の愛に導かれ、キリストに同行していただいている「愛の道づくり」のための旅だと思い知らされた。アイと二人だけではない。
自転車で今から阿寒湖へ行くという石川青年に心を残し、心の中で再会を約束して、二人はこの神秘の湖の淵で、主のみこころならばと祈り会って左右に別れ、峠を下って行った。
摩周湖は神秘的な美しい姿を私の前に惜し気もなく、存分に見せてくれた。
(つづく)
「心の旅路」より抜粋