心が弾み、つい歌が出た。アメイジング・グレイスだ。

「作詞者のジョン・ニュートン牧師」。彼は元、たちの悪い奴隷船の船長だった。そのたちの悪い船長が、英国とアフリカを行き来していた時、大嵐で難破しそうになって突然、無意識的に「神様、助けて下さい」と祈っていた。

「神様など信じていなかったのになぜ? これは、神様の啓示だったのではないか」と彼は悟る。それから少しずつ変わっていった。39歳で牧師になったジョン・ニュートン(1725〜1807)は、奴隷にされた黒人たちが、船底で口ずさんでいたメロディーに詩をつけた。それが、アメイジング・グレイスのいわれである。

♪おどろくばかりの めぐみなりき

この身のけがれを しれるわれに

♪めぐみはわが身の おそれを消し

まかする心を おこさせたり

♪危険をもわなをも さけえたるは

めぐみのみわざと いうほかなし

♪みくににつくあさ いよよたかく

めぐみのみかみを たたえまつらん

アーメン!

彼の墓碑銘には「主の深き慈悲によって許されし男、神のしもべとして、福音を伝えるべくして生まれ変わりし者……」と刻まれているという。

この讃美歌は、今やアメリカで愛唱されているばかりか、全世界の愛唱歌になっている。私たちは、この元奴隷船の船長の魂のうたに力づけられて、留萌めざして若駒のように、勢いよく国道をひた走った。「おどろくばかりのめぐみなりき」……。

−留萌の祈り−

夕闇の迫る留萌は静かな漁港都市だった。カメラ店、駅の案内所などで、クリオン島のトラクトがまるで生き物のように手元から離れていった。素朴なこの街に、いつの日か「足長オジサン、オバサン、お兄さん、お姉さんが与えられるかも知れない」。

ここはあの独裁者、スターリンに率いられた旧ソ連軍が、北海道の分割占領を企んで、真先に上陸しようとした地で、悲劇をまぬがれた歴史的に古い漁村だった。不思議な運命のなせるわざか、不幸からのがれられた奇跡の土地である。

二度とこのような不幸が企てられないように、漁港の灯台の近くの岩場で、私は対岸のロシアに向かって、人類平和のための祈りの叫び声を上げてから、留萌を後にした。

(つづく)

「心の旅路」より抜粋

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