【霊感】

断食終了後、体力、体重はがた落ちで、あばら骨が浮き出し、まるで骸骨が皮を被っている姿になってしまった。

鏡に映った姿をみてよく耐えたと我ながら感心した。

神のご加護を痛感した。

イエスは洗礼者・ヨハネから水のバプテスマを受けて直ちに誘惑の山で、四十日四十夜の断食を敢行された。

その後空腹を覚えられたと言う。

イエスも肉体の持ち主。

長い期間の断食で骨と皮ばかりの痩せたお姿が目に浮かんだ。

普通の人間には不可能である。

私は、皮を被った骸骨に、あの画家、ムンクの叫び顔を乗せた姿を想像していただくと、お分かりいただけると思う。

その代償に霊感は研ぎ澄まされていた。

体力の回復を待って私は二つのことを始めた。

【どや街行き】

昼間は横浜のどや街を回り、ホームレスの人々の相談相手になった。

あちこちに人生の問題を抱えたラザロさん(ホームレス)たちが居た。

様々な人間模様をみた。

彼らは寡黙な人々だった。

人生苦を胸の奥底に秘め、あるがままを呑み込んで現実に耐えている。

愚痴はあまり聞かなかった。

彼らとの付き合いで大事なことは、ただ一つしかない。

絶対、過去に触れることをしてはならない。

この暗黙のルールはどや街に息を潜めて暮らすお互いの身の安全に繋がる。

私は慎重に対応した。

どや街の安宿、僅か畳二畳の部屋にも時々泊まり込んだ。

私はどや街に行かざるを得なかった、元獣医の友の願いに従った。

彼を絶望の闇から救い出す道は、同じ環境に身を置いてこそ、必ず立ち直っるきっかけが掴めると考えた。

天井から吊された裸電球。小さな明り窓。

夜中は一晩中酔っぱらいの騒ぎと喧嘩の怒鳴り声が絶えなかった。

ダニや南京虫に刺されて身体中が赤く腫れたりもした。

ひどく痒い。

どん底の安宿にも朝陽が射し込む!

朝陽が小窓から射し込む頃は不思議な静けさに包まれた。

思いがけないハプニングも体験した。

私の部屋の前に住んでいた年配の男性と気があって部屋に招かれた。

二畳の奥に綺麗な分厚い座布団が敷かれその上に白い犬が行儀よく座っていた。

“俺の母ちゃん”と呼んでいた。

母ちゃんと呼び掛けるとお手をしてくれた。

人間は裏切り平気で嘘をつくが母ちゃんは信頼できると話してくれた。

孤独な人間に安心して身を委ね、癒しを与える犬の母ちゃんの存在感に胸が熱くなった。

【ローマ法王と鳶職】

ある朝、いつも行く寄せ場で、目付きの鋭い鳶職と名乗る人から突拍子ない相談を受けた。

「俺には前科がある。ローマ法王に会って罪を消してもらいたい。
ローマ法王に会うにはどうしたらよいか、あんたは牧師さんだから教えてくれと真顔で言う。」

彼に答えた。

いきなりあなたがローマ法王に会うのは無理ですよ。

今、あなたはお酒を飲んでる様子ではないし、真剣ですね!

私はあなたとたいして変わりのない人間ですが、あなたの罪は許されていますよ。

「彼は身体の刺青を見せて、こんな俺が本当に許されるのか?」と言う。

はい!身体ではなく心の問題です、あなたが真心から悔い改めて居るなら、あなたは神の許しを受けています。

「彼は更に問いかけた。それはどうしてわかるのか?」

今、あなたはの心は不安ですか?罪の呵責に苦しんでいますか?

平安ですか?なにか気持ちに変化がありますか?心に希望が持てますか?

あなたの重荷はローマ法王ではなく、イエスが肩代わりされます。
  
これは神に仕える私の確信です†

しばらく黙っていた彼の眼から涙が流れ、ぽたぽた地面を濡らした。

周りでわたしたちの様子を眺めていた仲間から「よかったナァー」と、呟きが出た。

「俺は必ず立ち直って社長になる!その時は献金するよ!」明るい顔を見せてくれた。
 
その後寿町で見た最後の姿であった。

私のどや街の伝道の始まりともなった。

愛の樹オショチ†

マルク・シャガール「天地創造の7日間」より(1971-3)

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1件のコメント

  1. 先生の今まで、生きてきたと言うより、生き抜いてきた道のりには、

    いろいろな人に出会い自分という存在を知り、感謝をもって過ごしてきたのですね。

    私の過去は、後悔の連続でしたが、その時は、精一杯だったとおもいます。

    過去に戻れたとしても、同じことをしたように思います。

    これから先は、死ぬ時に、悔いが、残らないよう、周りに迷惑かけない程度に、やりたいことを、やろうと思います。まずは、体力つけることを第一と考えています。
    ありがとうございます。

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