戸のすき聞から、北風がビュービュー吹き込んでくる。頭からすっぽりふとんをかぶっていても手足が冷えてなかなか寝つかれない。

この日、日本列島全体が寒気団におおわれていた。ふとんに入っていながら、この寒さだ。

「ホームレスの兄弟たちは、この寒さをどうしのいでいるのだろう」

ひどく気になった。

ウトウトしかけて、私は不思議な夢を見ていた。雪の降りしきる街角に、人影らしい姿が見えた。道端にうずくまって動こうとはしない。

「こんな夜更けに?」

私は不審に思いながら近づいてみた。

粗末なショールを頭からかぶった若い女性がそこにいた。

声をかけてみた。

「どうなさいました?」

返事がない。街灯のぼんやりした蛍光灯に照らし出されたのは、親子の姿であった。

突然のことで、びっくりした。その若い女性の腕の中に幼子がスヤスヤ眠っている。体が小刻みにふるえている。

私はとっさに、紙袋の中から夕食用に買ってきたパンを取り出すと、急いで、彼女に言った。

「どうぞ、これを食べて下さい。少しは体が温まります」

彼女は黙って手を差し出した。その横顔を見てハッと胸をつかれた。

何と美しい人なんだろう。
澄んだ瞳、清らかなその姿に、私は一瞬たじろいだ。

「有り難うございます」

彼女は懐に抱いた幼子を気づかいながら、静かにパンを食べ始めた。

人通りの絶えた夜の街。空から落ちてくる雪がサラサラと、かすかな音をたてた。

「もうーついかがですか」

「いいえ、もう充分いただきました」

透き通った声であった。私はどこへ行くのか尋ねた。

「もしよろしかったら、私の家にいらっしゃいませんか。あばらやですが、ここよりはましです。寒さもしのげますし。それに赤ちゃんのミルクも差し上げられます」

私たちは歩き始めた。しばらく行くと、彼女は急に立ち止まった。
「もう大丈夫です。お蔭様で元気になりました。ここでお別れしましょう」

私はびっくりして、
「とんでもない! とてもここでお別れするなんて、そんなことはできません。是非私の家に来て下さい。今夜一夜のお宿を」
と熱心にすすめたが、彼女は静かに微笑んで立ち止まったままである。

無理じいすることは避け、私は少し不安を感じながら歩き始めた。少し歩いて後ろを振り返ってみた。

その時である。
私は実に不思議な光景を目にした。空の一角が急に明るくなると、その光がこの若い母と子をめぐり照らした。

光は2人を包んだ。まるでいたわるように、はっきり意志を持ったもののような、厳かな光に包まれ、静かに天に昇っていくのを私はただ黙って見つめていた。

その時、天から声が聞こえた。

「貧しい者に祝福を!
神の祝福を! 」

雪は静かに空から舞い降りてくる。この夜に限って、いつも見かけているホームレスのラザロさんたちの姿が見えない。

私はふと、思った。

「今夜、ラザロさんたちは、きっと神の国で温かい食事が与えられ、この寒さをしのいでいるに違いない」
と。

空を見上げると、白い美しい雪が天からひらひら舞い降りて私のまぶたにとまった。

ふと、そこで目が覚めた。時計の針は午前4時をさしていた。私の体はすっかり冷えきって、手足は氷のように冷たい。その手足をさすりながら、今見た不思議な夢の中の、あの母と子を深く思った。

「あのお方は、もしかしたら、み子イエス・キリストと母のマリアではないか」

私たちの知らない所で確かに救いのみ手が、貧しい人苦しんでいる兄弟たちに差しのべられていることを確信した。

テレビをつけると、過去最大の寒気団がシベリアから日本に流れ込んでいるとニュースは伝えていた。北陸、東北、北海道は、かつてない豪雪だという。

肝不全を患っているこの弱し、肉体にとって、辛く、寒い朝ではあったが、その目覚めは祝福された魂の深い喜びの目覚めとなった。

「貧しい者に祝福を! 神の祝福を! 」 という、あの言葉が今も私の胸の奥底に響き続けている。


「心の旅路ー苦難の中に身を置いて知る神の愛」より

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